2006年10月05日

「KAFKA/迷宮の悪夢/KAFKA」

*おことわり*
記事の続きには、まだ本映画作品を見ていない方が読まれると多少とも作品の面白さを損なう可能性がある内容が含まれているやも知れません。気になる方はお読みにならないことをお勧めします。


「KAFKA/迷宮の悪夢/KAFKA」
1991年製作 米国
監督:スティーヴン・ソダーバーグ 製作:スチュアート・コーンフェルド他 製作総指揮:ポール・ラッサム、マーク・ジョンソン 脚本:レム・ドブス 撮影:ウォルト・ロイド 音楽:クリフ・マルティネス
出演:ジェレミー・アイアンズ、テレサ・ラッセル、アレック・ギネス、イアン・ホルム、アーミン・ミューラー=スタール、ジョエル・グレイ、ジェローン・クラッベ

実在の作家フランツ・カフカが、その著書の一つである『変身』を執筆中に、彼の作品で一貫して表現している不安と孤独を漂わせ、独特の不条理感に満ちた非現実的で幻想的な世界観や雰囲気が感じられるかの迷宮の悪夢に陥るというユニークなフィクションで、陰謀ミステリーものとしての要素も備えた映画作品やに思います。音楽に和風の響きが感じられるようで、何となく耳馴染みが良い気がします。

主要キャストに米国人が少ないです。冒頭の未明に奇声を上げながら追いかける奇怪(ロボトミー手術を施された)な男に"Vladimir Gut"演じる"カフカ"の親友で同僚の男性"エデュアルド・ラバン"が襲われるシーンは、緊迫感があって恐いですし、気持ち悪い感じがします。河辺での男性と"カフカ”が事務員として勤務している傷害保険局(労働者災害保険協会)で襲撃を受けるシーンも然りです。カフカの小説の映画化作品「トライアル/審判/THE TRIAL」「アメリカ/KLASSENVERHHUL TNISSE」「審判/THE TRIAL/LE PROCES」よりもカフカ的というかわかりやすい感じがします。カフカの小説には、非常に強く惹き付けられるものがあるのですが、その実、良くわかってはいません。プラハでのオールロケーションとのことです。モノクロームの映像が美しいプラハの街に透明感と怪しい雰囲気とを併せ醸し浮き映しているかのように感じられます。暗くて重々しいピーンと張り詰めた冷たい空気が漂っているような感じもしますが、前述の通り美しく、混沌、退廃的だとか終末的だとかの印象は強くは抱きません。

ジェレミー・アイアンは容貌がそっくりというわけではありませんが、カフカに見えます。有能な"カフカ"に嫉妬する姑息な上司"バージェル”を演じるジョエル・グレイが嫌らしくて好いです。"カフカ"の同僚の恋人で同じ傷害保険局に勤務する"ガブリエラ”役のテレサ・ラッセルがクールに綺麗です。傷害保険局のボス(チーフ・クラーク)を演じるアレック・ギネスの老練で余裕ある演技も見事やに思います。「X-ファイル ザ・ムービー」で演じたドイツの実業家を装いながら、実は「影の政府」の長老的存在であるコンラッド・ストラグホールド 役が印象的な、事件を捜査するグルーバック警部役のアーミン・ミューラー=スタールも"奴ら(官僚社会)"の仲間であり、諦観ともどかしさを抱きながらも、真相に迫ろうとの意欲は捨て去り切れていないやにも感じさせられるところと、どころなくうらぶれとハードボイルド感を漂わせて感じられるのが好いです。この役を主人公にした作品を撮っても、面白いものが出来そうな気さえする程、味のある雰囲気が興味深いやに思います。"Dr.ウルナム”役のイアン・ホルムも堅実な演技、独特の存在感と何ともいえない怪し気な雰囲気を醸し出していて好いです。"カフカ”の城への侵入の手助けをする自称彫刻家で石工・墓掘りの"ピズルベック”を演じる ジェローン・クラッベは味があって好いですし、かなり重要で興味深い役所やに思います。

"カフカ”が父親への手紙に”父親の君臨する家など・・・家族の絆にうんざりしている息子より"としたためようとしているように、事実そうだったようですが、社会の最小単位である家庭の環境、特に父親との関係の問題に起因するところが大きいやに思われる内向的、神経質、暗く病的に偏執的な性格で、恋人とおぼしきMaria Miles扮する"アナ”との関係からも心の外では能動的でない"カフカ"が親友の"ラバン”の死のみならず"奴ら(官僚社会)”の謎の真相を究明しようとする孤高さに魅かれ、シンパシーを感じるとともに孤独で切ない虚無感を感じてしまいます。

遠くから見ると堂々と、そして不気味にそびえている城や大切な親友の亡骸があたかも書類の山のごとく運ばれて行く描写や"死人は安らかに眠らせろ"と城に提出した傷害保険局の書類を閲覧不可能と聞かされて"見ることも出来ずに保管の意味が?"の台詞にはシニカル、核心的で深い闇を覗かされるような感じがして、作品の、そして、カフカの世界観が垣間見えるかのようです。

双子の助手の設定配置も面白いと思います。

アナーキストの一員でもある"ガブリエラ"と外で昼食を食べに出かけるシーンで袋から取って食べているのが何か気になります。サンドイッチでしょうか。

"カフカ"が城に潜入する際、"ピズルベック”に”これっきり会えなかったら アパートのノートを処分し、原稿を全部燃やしてくれ"と頼み、躊躇する"ピズルベック”に"友達ならやるよ”と年押しするのに対し、"ピズルベック”の"そうとは限らん 女房なら別だ”との返答が印象的です。

城の内部に侵入すると画面が色彩を帯びるのが何とも皮肉な不条理感を醸しているやに感じられます。
実験のため連れ去られた人々が、無慈悲にロボトミー(洗脳)手術を施されている光景は異様、不気味で恐くて不快です(慈悲深くとも尚更ですが...)。"ガブリエラ”を演じるテレサ・ラッセルの大胆不敵な強剛さにしびれ、彼女がサディスティックな医療研究者に施される非道で卑劣な仕打ちには、彼女のファンであることも相俟って、哀れみと憤りを禁じ得ません。
"Dr.ウルナム”と"カフカ”に語る"生理学の次はイデオロギーだ"との台詞か印象的です。
"Dr.ウルナム”と"カフカ”のすべては産業の発展のためのビジョンのない顔のない大衆の支配、物事の近代化・進歩に対する歓迎、人間の精神の解明と個性なき個人の集合である大衆・群衆の創造・創出・造成・変造、魂の不可侵性と悪夢を書くことと悪夢を作り出すことの相違についての掛け合い問答は、惹き込まれ、興味深く見応えあるやに思います。
ロボトミー(洗脳)手術を施された鉱山事故死者の記録に顔写真が貼ってある笑う男性の脳の表皮が天井裏のレンズの部屋の大きなレンズに顕微鏡を通して大映しになる様も不気味です。
このシーンはテリー・ギリアム監督SFファンタジー映画作品「未来世紀ブラジル」を想起させられます。

ラストで"カフカ”が父親宛の手紙に"自分は周囲の世界の一部。無知でいることよりも真実を知ることが大切と信じてきました それが果たして正しかったのが...私は世界の一部でーそれを否定する事はもう出来ません 父上とものの考え方は違っても、やはり父親の息子であることが分かりました 今更とるに足らぬ事かもしれませんが、それが小さな心の安らぎとなってこれからの暮らしと死に耐える力になるでしょう"としたためていますが、彼の思〔想い〕(の変化なのか)が心に重く響き、シンパシーを覚えつつ、今一つ釈然とししない思いがします。孤独が孤独を呼び寄せるのか、それとも人の本質である孤独を気づかせるのでしょうか。

島田陽子(楊子)さん主演のミステリー映画「花園の迷宮」という作品を観たのを思い出しますが、残念ながら面白くなかった印象を覚えてしまっております。

*以下の段落、あらためて読み返してみまして、毎度のこととはいえ、余りの支離滅裂さに流石にげんなりさせられてしまいましたので、配置の変更及び若干加筆訂正させて頂きました。尚もって、自分でも意味不明瞭な感は否めませんが...。
個人的、内面的や現実の日常・非日常世界に対する不安、不満、嫌気や恐怖が引き起こす想像思考、幻想、仮想、憶測や妄想が世の中に隠れて実在する謀略、謀議とシンクロすることもあるのではないかと思ったりします。所詮どちらも人によるものに過ぎませんので...。
想像思考、幻想、仮想、憶測や妄想により事実をそうたらしめてしまうこともあるやに思います。
片方を活かすために他方を犠牲にせねばならないことは無数にあるやに思います。
認知度と仕方は重要やに思います。広範に関わりがあればなおさらやに思います。事後の対処にも限りがあるやに思います。
繰り返しになりますが、上述の如く、自らの不安や不満と事実からの推察により導きだされた考えがシンクロし、今そこにある陰謀、謀議に行き当たってしまったことから行動を起こしてしまうこともあるやに思います。そう考えると、マーティン・スコセッシ監督、ロバート・デ・ニーロ主演サスペンス・ドラマ映画作品「タクシードライバー」の主人公トラヴィスを想起しますが、適当かどうかは定かではありません。
多くの人には知られることのない、支配者なのか、見られず、知られずに潜む恐怖なのか、それとも正気と狂気の境界線で見る想像思考、幻想、仮想、憶測や妄想など倒錯により偶然に導かれ行き当たってしまった事実、真実に過ぎないのでしょうか。


参照 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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posted by ウォルター at 16:05| ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | 鑑賞映画について(外国映画) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ウォルターさん、こんにちは。
この映画を見たことはないのですが、ウォルターさんの記事を読んで見たくなりました。
「変身」執筆中のカフカっていう設定と、ウォルターさんのアンテナが反応した父親とのやり取り、シニカルな台詞、Dr.ウルナム”と"カフカの掛け合い問答には感心させられ、カフカの人間と思想に対する制作者の理解の深さを感じます。ちなみに、僕はカフカの研究書を読みましたが、難しくて余り理解できませんでした。だから、本の最後に載っている解説程度しか分かっていないのでこんなこと言っていいのかわかりませんが(笑)。
なんとなくですが、現代(91年の作品ですが)このテーマで作品を作ることにも制作者の何らかの意図、メッセージがあるような気もします。見てみないとわかりませんね。
ウォルターさんの追記での考察も、興味深く読ませていただきました。
絵も特徴を捉えていて素晴らしいですね。背景の重苦しい青がカフカの人間性と重なって、よりリアルな人物画になったと思います。この色でなければ、表せないですね。と・・・絵はよくわからなのにすみません・・・。
それでは、またm(--)m
Posted by クマ・ブルース at 2006年10月09日 14:10
クマ・ブルースさんへ

コメントありがとうございます。

本作に興味を抱かれましたら嬉しいです。是非機会ある折にご覧になられたらと思います。
投稿記事にも記しましたように、カフカの小説は読んでよくわからず、クマ・ブスースさん同様、研究・解説書の類いを読んでも尚更に、よくわからずですが、本作は監督以下作り手なりにその何たるかを繙く鍵を示唆し、一端を垣間見せ、感じとらせ、もしくは推し量らせてくれているやに思います。
どのように受止められるかは観る人個々に委ねられるやに思いますが、クマ・ブルースさんがおっしゃられます通り、"現代にこのテーマで作品を作ることにも制作者(監督以下作り手)の何らかの意図、メッセージがあるような気もします。"ジェームズ・エルロイ原作の映画作品「ダーク・スティール」を監督したロン・シェルドンは、映画にはそれらが込められていなければならないとのたまわっていたのを思い出しました。
追記での考察は甚だ支離滅裂でお恥ずかしい限りであります。
絵についての評価は恐縮ながらも嬉しいです。またイメージを汲み取っていただけたようで、更なる喜びを感じております。
ありがとうございます。
Posted by ウォルター at 2006年10月09日 15:10
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