2007年12月24日

「善き人のためのソナタ/ Das Leben der Anderen」

「善き人のためのソナタ/ Das Leben der Anderen」
2006年製作 独国
監督/脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 製作:クイリン・ベルク、マックス・ヴィーデマン 撮影:ハーゲン・ボグダンスキー 衣装:ガブリエル・ビンダー 編集:パトリアシア・ロンメル 音楽:ガブリエル・ヤレド、ステファン・ムーシャ
出演:ウルリッヒ・ミューエ、マルティナ・ゲデック、セバスチャン・コッホ、ウルリック・トゥクール、トマス・ティーマ、ハンス=ウーヴェ・バウアー、フォルカー・クライネル、マティアス・ブレンナー

お気に入りリンクで紹介しておりますごみつさんのブログ『ごみつ通信 MOVIE LOVER'S DIARY』やJ美さんのブログ『みるよむ・・・Mrs.のAZ Stories』の本作を取り上げている記事を拝読して、近所のレンタルビデオ店で借りて観ようと思っていたのですが、借りようと思って行く度に貸し出し中で、中々借りる機会に恵まれず、先日ようやく借りてみることが出来ました。心を静かに激しく揺さぶられる作品やに思います。観る前は、もっと重苦しくて暗い雰囲気をした作品かしらとも思いましたが、私好みの寒々とした透明な雰囲気と空気感をした作品との印象です。J美さんもそのブログ記事の中で書かれていますように、138分の長丁場ながら、作品に惹き込まれっぱなしです。

ミハイル・(セルゲーエヴィッチ・)ゴルバチョフがソビエト連邦共産党の最後の書記長に就任し、国内でペレストロイカ(改革)とグラスノスチ(情報公開)を掲げる前年の1984年、壁崩壊前の東ベルリンで反体制派への監視を大規模に行っていた秘密警察・諜報機関である国家保安省、"シュタージ"の非情な実態を明らかにする描写にも衝撃を受けるものがありますが、ウルリッヒ・ミューエ扮する国家に社会主義に信頼をおき、忠誠を誓う局員の"ヴィースラー"がウルリッヒ・トゥクール演じる上司の"ブルビッツ部長"から命を受けてトマス・ティーマ扮する"ヘムプフ大臣"や"ブルビッツ部長"の薄汚い思惑もありながら反体制の疑いありとされるセバスチャン・コッホ演じる人気劇作家の"ゲオルク・ドライマン"と"マルティナ・ゲデック"扮する恋人で同棲相手の人気舞台女優、"クリスタ=マリア・ジーラント"を秘かに且つ徹底的に監視するうちに、"ヴィースラー"と共に次第に"ドライマン"と"クリスタ"の間にある愛の在り方や考え方や生き方、そして彼らの芸術性や創作力・創造力に惹き込まれ、共感し、感銘を受け、そして、そうした影響を受け行く"ヴィスラー"にも惹き込まれ、共感し、感銘を受けて行ってしまいます。本作の前に鑑賞したロバート・グレイスミスが現在に至るまで未解決の連続殺人事件、"ゾディアック事件"にサンフランシスコ・クロニクル紙に風刺漫画家として在籍しているときに遭遇し、独自に調査した経験をもとに記した同名著書をデヴィッド・フィンチャー監督がジェイク・ギレンホール主演で映画化した犯罪サスペンスミステリー作品「ゾディアック」と同じようにさして過激だったり、スリリングだったりすることのない、比較的淡々と静かでリアルな描写と展開が、クライマックスでの痛ましさにラストのラストでの想いが、希望が、救いが感じられるカタルシスと絶妙なバランスをしていていることもあって、素敵で感動を禁じ得ず涙と嗚咽が込み上げます。"ヴィースラー"の私の心を揺さぶる反体制派としてブラックリスト入りをし、活動の機会を奪われたフォルカー・クライネル扮する嘗ての人気演出家、"イェルスカ"から誕生日のプレゼントとして送られた楽譜、『善き人のためのソナタ』を、"ドライマン"が"イェルスカ"の死を悼む中、弾くピアノの調べの使い方は控え目ながら効果的で絶妙やに感じます。ごみつさんもそのブログ記事で触れられていますが、"ヴィースラー"がバーで打ち拉がれている"クリスタ"に"ファンです"と語りかけるシーンと後半のシーンでのこのシーンとの絡みは素敵やに感じます(チョッと表情が怖い気もしないではないですが...)。ただし、"ヴィースラー"が"ドライマン"の部屋から拝借して来て読むベルトルト・ブレヒトなる劇作家詩人で演出家の本の詩はピンと来なかったりします。"ドライマン"のアパートのエレベーターで住人の子供と会話を交わすシーンはゾクッとしたりします。

"ドライマン"役のセバスチャン・コッホは、はじめのうちは容姿が若い頃のパワーズ・ブースに似ている気がするなというくらいなのですが、観進むうちに目元がジャック・ニコルソンやスティーヴン・セガールのようだったり、口元から顎に掛けての表情がルパート・エベレットのようだったり、サム・エリオットのように愁いを帯びたシブさを醸して感じられたりしてきて、味があって渋くてとても素敵で、とにかくカッコ好く映ります。""クリスタ"役のマルティナ・ゲデックは強さと弱さを微妙に表現していますし、シャワーシーンで映る肉感的な身体に拵えた痣に生々しくリアルな生の葛藤を感じる気がしたりもして、これも上述の「ゾディアック」で連続殺人者、"ゾディアック"によるCiara Hughes扮する第一の被害女性、"ダーレン・フィン"のクレア・デュヴァル演じる姉で、サンウォーキン模範囚労働者収容所に収監されている"リンダ・デル・ボーノ"の二の腕につけた痣を想起したりもします。また、本作でのウルリッヒ・ミューエは、以前の投稿記事で取り上げていますフランツ・カフカの未完の小説『城』をミハエル・ハネケ監督が脚本をも手掛けて忠実に映画化したミステリードラマ作品「カフカの「城」<未>」で似ているという印象を受けたケヴィン・スペーシーやジョン・マカードルというよりもウィリアム・ホープ(ウィリアム・ホープ・ホジスンではありません...)に似ている気がします。ごみつさんのブログの本作を取り上げられている記事に記されているを読んで知りましたが、彼自身実際旧東ドイツ時代に本作同様に反体制派への監視を大規模に行っていた秘密警察・諜報機関である国家保安省、"シュタージ"の監視下にあり、"HA II/13"というコードネームのシュタージ職員に接触していたシュタージの非公開協力者であった元夫人のグレルマンに監視・密告されていたとのことを本作の関連本に収録されているインタビューの中で告白しているとのことですが、非公式協力者との自覚はなく、飽くまで結果的に協力しまったに過ぎないとして、グレルマンにより申し立てられた本に対する出版差し止めの裁判ではグレルマンの申し立てが認められ、出版は差し止められるとともに、ミューエの控訴も退けられ、ミューエに対して今後彼女をシュタージの元非公式協力員呼ばわりすることを禁止したとのことです。気づきませんでしたが、ウルリッヒ・ミューエは、第二次世界大戦前夜に日本に暗躍し、日独の最高機密情報を盗み出し、モスクワに送り続けたソ連軍の国際スパイ、リヒャルト・ゾルゲを篠田正浩監督が製作/原作/脚本をも手掛け、イアン・グレン主演で描いているサスペンスドラマ映画作品「スパイ・ゾルゲ」にも出演してるとのことです。今年7月に急逝されたとのことで、とても残念です。ここに心よりご冥福をお祈りいたします。

信頼、信念、失望、感得、共感、付託、懸け、悲観、絶望、兆し、救い...そして希望...人生...想い...愛...そして希望...昨日、今日、明日...そして希望...『善き人のためのソナタ』の調べをいつでも、いつまでも聴き、心に響かすことが叶わんことを...音楽とは、芸術とは...希望...。

ソナタはどなた...なんて...スミマセン...まずはとにかくベートーヴェンのピアノソナタ『熱情』...善き人になるためのソナタ ...を聴くことが出来ました...劇中"ドライマン"が弾くピアノの調べによる『善き人のためのソナタ』の方が好きかもしれません...善き人とは、善い人になるのはどなたで何か...その例えの一つを観る気もします...。

何故かジョセフ・コンラッド原作の『密偵』をクリストファー・ハンプトン監督が脚本をも手掛けて、ボブ・ホスキンス主演でリメイク映画化したサスペンス作品「シークレット・エージェント」を想起したりもします。因に最初の映画化作品は名匠アルフレッド・ヒッチコック監督による「サボタージュ<未>」とのことです。

フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクは若干33歳にして撮った本作が初の長編監督作品とのことで、2006年・第79回米アカデミー賞・外国映画賞を受賞するなどの評価も受けていますし、今後期待した新たな映画作家の一人ですが、何よりも驚くのは身長が206cmもあるということです。サッカードイツ代表のメンバーだったりしたら、更なる脅威と思ったりします。

参照 フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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posted by ウォルター at 10:55| ☔| Comment(4) | TrackBack(4) | 鑑賞映画について(外国映画) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
今晩は。

ご覧になったんですね。トラックバック有り難うございます。私も早速、TBさせていただきました。

この作品は本当に心に残る秀作ですよね。

東ドイツについて、こんなにも知らない事ばかりだった自分が、ちょっと恥ずかしくもありました。

主人公のウルリッヒ・ミューエが、太った娼婦を買うシーンとかも、寒々としたかれの孤独が、胸に迫る様でしたよね。
彼は「スパイ・ゾルゲ」にも出てるんだ!!知らなかった〜。見てみたくなりました。
Posted by ごみつ at 2007年12月24日 22:58
ごみつさんへ

コメント及びトラックバックありがとうございます。

投稿記事にもトラックバックの概要欄にも記していますが、ごみつさんの記事を拝読したのがきっかけで、観てみようと思いました。感謝いたします。

投稿記事にも記しましたが、もっと重苦しく暗い(辛気くさい)雰囲気をした作品かしらとも思っていましたが、それは単なる杞憂に過ぎず、おっしゃられるように、心に残る素敵な作品やに思います。

私も旧東ドイツといえば、(エーリッヒ・)ホーネッカー国家評議会議長くらいしかすぐには思いつきません。ベルリンの壁が崩壊したことにより生み出された歓喜と感動のうちに果たされた東西再統一、その後生じた問題は今に至ってもまだ解消されてはいないようですが、良い方向に向かっていると願いたいです。
敗戦国(枢軸国)とはいえ、第二次世界大戦後の二大超大国米ソの思惑に翻弄された結果でもあるのかも知れません...。

何ともやるせない切ない気持ちになる気もします...でも微妙ながらホッとする気がしないでもありません。
私は「スパイ・ゾルゲ」観ていますが、当時はウルリッヒ・ミューエを知らなかったこともあり、出演しているのは本作の記事を書くにあたり、彼について調べて初めて知った次第です。182分と本作よりも更に長丁場の作品です...。
Posted by ウォルター at 2007年12月25日 00:40
先日はTBありがとうございました!
ドイツ映画で苦虫つぶしたようなお顔の男性が主人公・・・最初もっと堅苦しく難解なものを予想していたのですが、圧倒されました!ラスト・シーンをみるためだけにでも何度もみたいとさえ思いましたもの。

それでは良いお年を。
Posted by J美 at 2007年12月28日 14:24
J美さんへ

コメント及びトラックバックありがとうございました。

投稿記事にもトラックバックの概要欄にも記していますが、J美さんの本作に関する記事を拝読したのもきっかけとなって、観てみようと思いました。感謝いたします。

記事にも記していますが、私もJ美さんがおっしゃられるように、観る前は、もっと重苦しくて暗い雰囲気をした作品かしらとも思いましたが、私好みの寒々とした透明な雰囲気と空気感をした作品との印象の心静かに激しく揺さぶられる作品やに感じます。さして過激だったり、スリリングだったりすることのない、比較的淡々と静かながら面白くて惹き込まれてしまうリアルな描写と展開が、クライマックスでの痛ましさにラストのラストでの想いが、希望が、救いが感じられる静かでドラマティックなカタルシスと絶妙なバランスをしていていることもあって、素敵で感動を禁じ得ず涙と嗚咽が込み上げてしまいます。"ヴィースラー"をはじめとした登場人物たちの魅力も然ることながら、ウルリッヒ・ミューエをはじめとした俳優陣の演技、雰囲気と存在感は素敵で、魅力的で、見応えあるやに思います。"ドライマン"も、演じているセバスチャン・コッホも好い男と思います。

J美さんもさんも良いお年をお迎え下さい。また善い映画作品に出逢えますことを願っています。

今年最後に鑑賞する映画作品(DVD)は、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督/製作、ブラッド・ピット主演のドラマ「バベル」かマイケル・メレディス監督/脚本、ドン・メレデス主演のドラマ「Rain レイン<未>」となりそうです。最好きな佐々木倫子さんの同名人気コミックを吉沢悠さん主演んでテレビドラマ化したコメディドラマ『動物のお医者さん』も観る予定です(笑)。
Posted by ウォルター at 2007年12月29日 10:58
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善き人のためのソナタ
Excerpt: Das Leben Der Anderen 2006年/ドイツ (監)フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク (演)ウルリッヒ・ミューエ マルティナ・ゲデック セバスチャン・コッホ ☆☆☆☆ ..
Weblog: ごみつ通信 
Tracked: 2007-12-24 22:50

善き人のためのソナタ
Excerpt: この曲を本気で聴いた者は 悪人になれない 善き人のためのソナタ スタンダード・エディション  2006年 ドイツ 監督 フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナース 冒頭のテロップを..
Weblog: みるよむ・・・Mrs.のAZ Stories
Tracked: 2007-12-28 14:19

『善き人のためのソナタ』今年ナンバー1映画
Excerpt: 前々からずっと観たいと思っていた
Weblog: ふるちんの「頭の中は魑魅魍魎」
Tracked: 2007-12-31 11:46

善き人のためのソナタ
Excerpt: Das Leben Der Anderen 2006年/ドイツ (監)フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク (演)ウルリッヒ・ミューエ マルティナ・ゲデック セバスチャン・コッホ ☆☆☆☆ ..
Weblog: ごみつ通信 
Tracked: 2012-11-21 17:20