2006年09月27日

『アマンダ』

おことわり*
記事の続きには、まだ本小説作品を読まれていない方が読まれると多少とも作品の面白さを損なう可能性がある内容が含まれているやも知れません。気になる方はお読みにならないことをお勧めします。


今回またしても、購入したまま、読まずに書棚に眠っていた本の内、以前このブログの投稿記事で取り上げたマイケル・ダグラス主演のサイコ・サスペンス・スリラー映画作品「サウンド・オブ・サイレンス」の原作『秘密の友人』の作者、アンドリュー・クラヴァンの『アマンダ』を読みました。

冒頭のマサチューセッツ州のハニカットという小さな田舎町で起きた飛行機墜落事故の大惨劇により、地獄絵図と化した町で起きた謎めいた出来事からはじまる主人公の少女、"アマンダ"と母親の"キャロル"の逃亡劇に一気に惹き込まれてしまいました。

登場人物、特に"アマンダ”と彼女に近しく接し、関わっている人々、愛娘"アマンダ”を愛し、彼女のを魔の手から守るためには、あらゆる手段をも厭わない賢く狡猾、タフで生命力に溢れた母親、"キャロル"、愛する妻の不条理で不遇の死のトラウマに苛まれ続け、運命の悪戯から"キャロル"に出会い、事件に巻き込まれ、共に逃亡劇を繰り広げるはめとなるサックス奏者"ルーニー”や母娘の逃亡を幇助する元密輸業者の"チャブ"、"アマンダ"を預かる正直、聡明、温和で愛情豊かな中年女性"ジーナ"や肺の腫瘍の病気に犯され人生の絶望の渕にあった大学の古典学の教授"ロス”も実に魅力的に描かれています。

"アマンダ"と"ロス"とのかけあい、"ロス”が"アマンダ”にギリシャ神話を語って聞かせるシーンの描写は、光景がまざまざと目に浮かぶようで、微笑ましく、ピュア、感動的で、"アマンダ”の真摯な眼差し、生真面目なしかめつらしい表情、心を揺さぶられる容姿、謎めいた子供らしさと無垢な英知に心の琴線を揺さぶられ、ついつい目頭が熱くなってしまいます。著者の子供に対する眼差し、慈しみ、賞賛や畏敬故なのか『秘密の友人』に於ける"ジェシカ”といい、その描写は卓越し、見事で素敵やに思います。

ただ雇われ殺し屋の"ウィンター"には違和感を禁じ得ません。パロディなのか、コメディなのか、滑稽にさえ感じてしまいます。<執行決定>という国際的準軍事組織の北アメリカ支社の支社長にして最高の人材とされていながら、組織力、情報収集力、調査力と機動力に依拠しているばかりやに見てとれてしまって、彼自身は取り立てて卓越したといえる能力や洞察力を発揮しているやに見受けられません。追跡対象である"キャロル”達に先んじて如何なる有効で画期的な手だてをも講じているようには思えず、部下の処遇についても恐怖による服従を強いているにすぎない印象が強く、安っぽい冷徹さの印象ばかりが強く、優れているとは思えませんし、自らミスター・ビジネスマンたろうとしながら、スマートさやスペシャルさを感じさせず、自らの自己顕示欲やサディスティックさの虜に成り下がっている精神病質傾向者に感じられ、到底最高の人材とは見なせません。人物像の魅力と背景や人間味の描写にも乏しい気がします。彼の部下たちの方が、人間的興味・面白みが感じられるやに思います。それから殺人すら厭わず請け負う組織とは言え、仮にも(たかだか一)企業業務でありながら、母娘の逃亡に関わりのある者をことごとく殺害して処分するというのは、本作に於いては安直に過ぎて、巧妙さに欠ける気がしなくもありません。
著者の描写に問題があるというよりも"ウィンター”についてはこうした役柄設定なのだと解釈、納得しており、上述のしっくりしない点を差し引いても、十分面白い作品であります。

此だけのスピード感ある、サスペンスフルでエキサイティングな展開ながら、フェードアウトするかのラストは、感動的で優しく温かな余韻と想像(希望)の余地を残してくれているやに思えるのも好いです。

とにかくなんといっても主人公の少女"アマンダ”が、素晴らしく魅力的(に描かれており)、文庫の表紙の女の子の写真が正に"アマンダ"のイメージにピッタリなのは驚嘆で、印象に強いです。

スティーブン・キングの『ファイアー・スターター』に似ていると言えば似ていなくもないやに思います。続きを読む
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2006年09月11日

『puzzle/パズル』

この間、購入したまま、読まずに書棚に眠っていた本の内、4冊のミステリー小説を読みました。デボラ・クロンビーの警視キンケイド・シリーズ第8作『警視の不信』、メアリ・W・ウォーカーのデビュー作にしてアガサ賞受賞の『凍りつく骨』、横溝正史さんの『本陣殺人事件』に収録されている『本陣殺人事件』は既読でしたので、その他の二編と恩田陸さんの祥伝社文庫創刊十五周年記念特別書き下ろし作品『puzzle/パズル』です。それぞれそれなりに面白く読みましたが(警視キンケイド・シリーズの他の作品はもっと面白いやに思うのですが...)、中でも恩田陸さんの『puzzle/パズル』は"面白い"といえるのか、何というか肩すかしを食らったというか、狐につままれたかのような感覚に陥らされながらも、惹き付けられる作品との印象です。ラストを字面通り鵜呑みにするだけでなく、計り知れない深遠なるものではない青春の、青臭い泡沫の妄想や妄影やも知れぬとの見方と思案を脳裏の片隅にでも置いてみれば、より考えなり、想像力なりを喚起させられ、更に魅力的な作品に感じられるやも知れないと思ったりもします。裏表紙にある"息詰る攻防を描く描く驚愕のミステリー!”との謳い文句は些か誇大な気もします。153頁と短く、字も大きいので読みやすいです。
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2006年09月06日

『HAWKES HARBOR』を読んで

先日のこのブログの投稿記事で読書中と書きましたスーザン・エロイーズ・ヒントンの小説『HAWKES HARBOR』のペーパーバック版、読み終わりましたので、若干の感想を記しておきたいと思います。

読み終えてみますと、前の記事で述べました"幼少で孤児となり、幾多の苦境、苦難をも乗り越えて来た粗野でタフ(でナイーブ?)な主人公の青年、"ジェイミー・ソマーズ"を恐怖し、苦しめ苛み狂気へと陥れ、永遠に彼の人生を変えてしまうデラウェア海岸のホークス・ハーバーで彼が目の当たりにした恐怖以上の体験にまつわる物語です"は誤りとは申しませんが、若干ニュアンスを異にした印象であります。

前にも書きましたが、ミステリアスで、サスペンスフルで時間軸を巧みに交錯させて描かれ、序盤で語られる瑞々しく、若さと活力に溢れ、スリリングな冒険談的エピソードをはじめ、アドベンチャーありのダーク・ホラー・ファンタジーでありながら、ドラスティックではありませんが、ドラマティックな運命劇やにも思います。依然として恐怖のミステリアスさを残しており、成長・再生の苦しみを描いたユーモラスであり、温かさのある作品とも思います。

様々な要素を折り込み、重ね合わせる仕方は憎く感じられます。設定、組み立て、展開の妙が素敵で惹き付けられ、摩訶不思議な感覚にも陥らされる大変ユニークで醍醐味があり、多要素、多面的で意義深い、その実、S.E.ヒントンらしい作品とも言えるのではと思います。
映画化は困難やも知れませんが、成せたなら大変興味深く見応えある作品に成り得るやに思います。

主人公の"ジェイミー"の思・想いや考えには強くシンクロし、シンパシーを感じてしまうところがあり、彼を取り巻く登場人物達の気持ち、思・想いや考えが次第に伝わって来て、気持ちの変化や揺れをまざまざと感じさせられ、それらがとてもユニーク且つ人間的(笑)に感じられます。

切ない話しともとれるやも知れませんが、どちらかというと清々しい読後感であります。脈絡の不明瞭さや腑に落ちない、矛盾めいた違和感を感じられる読者の方もいらっしゃるやも知れません。

飽きさせずに惹き込み、気がついてみればS.E.ヒントンワールドにどっぷり浸らせられている感じであります。

読み終えてみるとプロローグが印象的で大切に感じられもします。

拙い英語力で電子辞書を小脇に読みましたので、正しく読み取れているかは、甚だ疑わしいところがあり、翻訳版が出版されても、読むのはチョッと怖い気もしますが...、とにかく面白かったです。

posted by ウォルター at 19:34| 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | 読んだ本について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月29日

『HAWKES HARBOR』

先日からこのブログで一番最初に投稿した記事のフランシス・フォード・コッポラ監督映画作品「ランブルフィッシュ」の原作者にして監督と共に脚本も手がけられ、端役ではありますが出演もされているスーザン・エロイーズ・ヒントンの小説『HAWKES HARBOR』のペーパーバック版を電子辞書を小脇に読んでおります。然程の予備知識なしに読みはじめたのですが、面白く、惹き込まれております。現在174ページまで読みました(289ページあります)。彼女の代表作である上述の『Rumble Fish』『アウトサイダーズ』のような若者の複雑に揺れ動く心、不安、誤解、擦れ違い、悩みや訣別といった問題や成長を描いた青春小説とは一味も二味も異なる恐さこそそれ程は感じませんが、ミステリアスで、サスペンスフルで時間軸を巧みに交錯させて描かれたダーク・ホラー・ファンタジーです。幼少で孤児となり、幾多の苦境、苦難をも乗り越えて来た粗野でタフ(でナイーブ?)な主人公の青年、"ジェイミー"を恐怖し、苦しめ苛み狂気へと陥れ、永遠に彼の人生を変えてしまうデラウェア海岸のホークス・ハーバーで彼が目の当たりにした恐怖以上の体験にまつわる物語です。Vampireも登場します。
情けなくも昨日ぎっくり腰になってしまいましたので、今宵は痛みをこらえながら続きをゆっくり読みたいと思います。
読み終わってから感想なりを書ければ良いやも知れませんネ。
それから本日ぎっくり腰の診察と治療を受けに病院に行った帰り、ずっと買いそびれていた今市子先生の『百鬼夜行抄』の文庫版8巻も購入しましたので、こちらも読むのが楽しみです。
posted by ウォルター at 22:30| ☔| Comment(5) | TrackBack(0) | 読んだ本について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月07日

『鉄槌!』

若い頃は一晩で一気に本をまるまる一冊読んでしまうということも結構ありましたが(といってもミステリーやサスペンスの類いですが)、近頃はめっきりそうしたこともなくなってしまいました。一番最近(といっても随分前ですが)では漫画家のいしかわじゅんさんの著書『鉄槌!』でした。著者自身が経験した誰しにも起こり得るアクシデント(事件)がきっかけとなっての不条理な法廷闘争を綴ったリアルでサスペンスフル、そしてそこはかとなく幻想的雰囲気と空気感が漂うノンフィクション小説です。作家の高橋源一郎さんが本書の文庫解説で"まるでカフカの小説のように見えてくるのを感じた"と書いており、カフカの不条理小説『城』になぞられてもいるようですが、読まれた方の中には同様の印象を持たれた方もおられるのではと思います。かくいう私もその一人です。特に東京地裁の記録閲覧室へ裁判記録を閲覧しに行くくだりで、地下の司法協会で申請書にハンコを押してもらい、一日おいて裁判記録を記録閲覧室の一画にある司法協会でコピーをしてもらい、また地下の司法協会で製本してもらうシーンはまさにカフカの小説を彷彿とさせられるかのような(させられなくともいいのですが)リアルで幻想的な雰囲気というか空気感の素晴らしい描写と思います。理不尽であることもさることながら、五里霧中、暗中模索で臨んだ著者自身初めての法廷闘争を受けて立つにあたり、不遜な大企業による金の力に物をいわせた(かのような)恫喝(めいた)訴訟に"不当ないいがかりだ...そんなものに屈服する理由はない。絶対に、闘わなくてはいけない。これは、ぼくの人間としての、名誉を守る闘いでもあると思う..."との憤り、意地、根気と忍耐で決然、敢然と立ち向かう姿は勇ましく凛々しいです。この本のいしかわさんの"バカヤロー!!"の心の叫びは説得力があり、その手で振り下ろされる"鉄槌!"は痛快で痛切でもあります。最後の最後に好奇心と探偵力で突き止める真相とリアルでオトナな終焉に、読後感の清々しさ、爽快感たるや、なんとも心地良いのです。

同氏著書『秘密の手帖』『業界の濃い人』)も大変面白かったです。鋭く辛辣も温かみある人間観察眼で業界と呼ばれる世界の友人・知人について書き綴ったエッセイです。特に親交浅からぬ高千穂遥さんについて書かれたくだりは抱腹絶倒です。

いしかわさんは自分自身に正直で、常識に囚われはしないけれどコモンセンスを持ち合わせた違いの分かる方と思います。

いしかわじゅんさんがレギュラー出演されているBS2(NHK衛星第二テレビジョン)で不定期に放送されている「BSマンガ夜話」ですが、最近は同番組でもお馴染みの岡田斗司夫さんが司会を務められている「BSアニメ夜話」の放送こそあるものの、「マンガ夜話」の方は久しく放送が途絶えてしまっていて寂し限りです。
posted by ウォルター at 01:53| 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | 読んだ本について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする